伊藤計劃「虐殺器官」(ハヤカワ文庫)
会議室が集合しているエリアに入ると、ほとんどすべての部屋が使用中のようで、さまざまなプレートがドアに掲げられていた。
曰く「リビア自由化委員会」
曰く「東ヨーロッパ安定化委員会」
曰く「スーダン問題道徳的介入準備会」
曰く「対テロ情報集約会議」
世界中の問題が、ここペンタゴンの会議室が集中する一角で話し合われ、決められている。
ある国を「自由化」するなんて、普通に考えたら完全な内政干渉、大きなお世話というやつだ。だが、ここにはそんな外交的「倫理」などはじめから存在していないようで、他国の内政をどうするかについて、きわめてナチュラルに話し合いが行われている。
そのなかにひとつだけ、単に「立入禁止」とだけ表示された会議室がある。
「ここだ」
ウィリアムズが言い、振り返って他の部屋の扉を見渡しながら、
「『立入禁止』−−他の部屋に比べてずいぶんとシュールな話題だな」
このギャグがこの本でいちばんの(唯一の、では少し表現が強すぎる)収穫だと思ったおれはこの本のよい読者だとはいえないだろう。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/02/10
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