伊藤計劃「虐殺器官」(ハヤカワ文庫)

 会議室が集合しているエリアに入ると、ほとんどすべての部屋が使用中のようで、さまざまなプレートがドアに掲げられていた。
曰く「リビア自由化委員会」
曰く「東ヨーロッパ安定化委員会」
曰く「スーダン問題道徳的介入準備会」
曰く「対テロ情報集約会議」
 世界中の問題が、ここペンタゴンの会議室が集中する一角で話し合われ、決められている。
 ある国を「自由化」するなんて、普通に考えたら完全な内政干渉、大きなお世話というやつだ。だが、ここにはそんな外交的「倫理」などはじめから存在していないようで、他国の内政をどうするかについて、きわめてナチュラルに話し合いが行われている。
 そのなかにひとつだけ、単に「立入禁止」とだけ表示された会議室がある。
「ここだ」
 ウィリアムズが言い、振り返って他の部屋の扉を見渡しながら、
「『立入禁止』−−他の部屋に比べてずいぶんとシュールな話題だな」

このギャグがこの本でいちばんの(唯一の、では少し表現が強すぎる)収穫だと思ったおれはこの本のよい読者だとはいえないだろう。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

水戸部功によるカバーデザインが秀逸。80年代っぽいが。