「つぐない」

開幕、いかにも英国らしいカントリーハウスでのシーンはどのショットも信じられないほど美しい。その後も美しいショットの連続で画面から目を離せない。戦場のシーンさえ美しさにあふれている。しかし、その「美しさ」には理由がある。
終幕、現代のシーンはあまりにも無造作に撮られていて美しさのかけらもない。醜いと言ってもいいほどだ。しかし、その「醜さ」には理由がある。
創作と現実。
この作品固有の斬新な話法にも注目したい。複数の視点からあるできごとを見る、その複数の解釈を混乱なくみごとな手さばきで展開していく手腕はすばらしい。しかもその実験性を突出させない監督の見識の高さには脱帽するしかない。
音楽・音響効果もよい。
ダリオ・マリアネッリによるオリジナル楽曲はアカデミー賞を受賞した。ピアノに鬼才ジャン・イヴ・ティボーデ。それにくわえて「ラ・ボエーム」の愛の二重唱*1や「月の光」などの既製曲が実に効果的に使われている。
役者陣にもあながない。これはすごいことだ。脇役まで、この演技はちょっと、という役者がいない。*2
作品の隅々まで完全にコントロールしきった監督ジョー・ライトおそるべし。

つぐない [DVD]

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と、ここまでは「あたま」で見た感想。
で、この作品がすごいのは「あたま」をどんどん覚醒させるのに「こころ」にもばんばんうったえかけてくること。エラソーなこと言ってますけど、実は見てる間ずっと涙ぼろぼろでしたから、おれ。
ほんと、すみません(;´Д`)

*1:使われているのはトーマス・ビーチャム指揮の音源。ロス・アンヘレスとビョルリンクのこの世のものならぬほどの美声が、そしてサー・トーマスのロマンティックなミュージック・メイキングが、とてもはまっています

*2:そんな中、ヴァネッサ・レッドグレイヴが集中力を欠く演技でどうしてこれがOKなのかと不思議に思えたのだが、実はそれこそ役作りなのだった! なんてことだ。なぜそんな演技をしているのか、その理由は作品をご覧あれ